ロルフとジェム

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 ジェムの視線を感じて表情は引き締め、 「呼びやすければニコラで構いません。敬語も使わなくて結構です」 といつもの調子で返答したが、声音が幾分優しく聞こえる。本人も自覚しているらしく、ふいと調理場に戻っていくニコラの背を見て、ジェムは困った人だねと笑った。 「笑って話せばいいのにね。彼なりの執事像を目指しているらしくて、ポーカーフェイスを頑張っているんだ。僕は彼を若いころから知っているし、あまり意味がないと思うんだけど」  ロルフと同じくらいの年とは思えないジェムの言い方に、ロルフは目を丸くした。ニコラが「ジェム様」とたしなめながらテーブルに皿を置いて、自らも席に着いた。優しいピンク色の花を惜しげなく乗せたサラダが、ジェムの表情をまた輝かせた。物珍しそうに身を乗りだすロルフに、ジェムは「どうぞ食べてみて」と皿を近寄せた。 「その花、いいだろう。味も悪くない種を選んで、うちの花壇で育てたものなんだ。肥料にも気を付けているから食べて大丈夫だよ」  玄関前のタイルや芝に続き、ここでもジェムのこだわりが発揮されているらしい。ロルフは素直に感心し、じゃあ、と花の茎をそっとつまんだ。花をくるりと眺めてから、ちょっと緊張した顔で花弁をそっと食む。数回咀嚼して、へえ、と顔を綻ばせた。 「みずみずしい感じがするな。歯ごたえが柔らかくておいしい」  花びらを一枚ずつ堪能したロルフは、次は小ぶりの花を手に取り、丸ごと口の中に入れた。口の中でふわふわと揺れる花が楽しい。ゆっくりと口を動かしていると、ジェムは嬉しそうに笑ってロルフを見つめた。 「ロルフみたいに楽しんでくれると、こちらももてなした甲斐があるよ。ねえニコラ」 「ええ」  寡黙を徹底しようと努めるニコラも、ロルフの様子を見て普段より幾分穏やかな目つきをしている。いいことだ、と胸中で呟き、自らも花を手に取ったジェムを、今度はロルフが見つめた。
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