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石造りの廊下に、二人分の足音が響く。食事を終えたロルフは、今夜貸す部屋に案内するといわれてジェムの後をついて歩いていた。掛かっている豪華な燭台を眺めながら歩を進め、ふと口を開く。
「今日は本当にお世話になってしまったな。ご飯もお腹いっぱい食べさせてもらったし」
おいしかった、と柔らかな口調で言うロルフを振り返り、ジェムは首を振った。
「世話になったのはこちらのほうだよ。君のおかげで無事に森から帰れたのだし。ニコラ以外と話すのが久々でね、僕も楽しかったよ」
朗らかに話すジェムを、嬉しそうに見つめるロルフ。
「本当に感謝してるんだ。森で死ななかったのも君のおかげだ。──だからこの先の命、どうなろうとおれはあなたを恨まないよ」
表情を変えないまのロルフ。反して、ジェムはその言葉に立ち止まった。
「──え?」
目を瞠ってロルフに向き直る。ロルフはジェムより数歩進んだところで立ち止まり、ジェムの目をまっすぐに見た。
「獣人は世間では嫌われているが、労働力としては人間よりよほど役に立つ。見世物小屋に売っても値が付くな。俺の先祖や同郷の者も数多く人間に捕えられて奴隷として売り飛ばされたと聞いている。おれはそうなる気はなかったが、今日あなたに救われた命だ。奴隷として売られてその対価であなたに恩を返せるなら、今後奴隷として生きていくのも悪くはない」
あくまで笑顔のまま、静かに言い重ねるロルフ。ジェムは顔をゆがめ、
「どうして、そんなことを言うんだ……僕が君を売る、なんて」
と硬い声で言った。問われたロルフは首を傾げ、
「──君が優しいから」
と呟く。それから、少し目を伏せて言葉を続けた。
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