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「…森に入るまで、少しの間、街で仕事と家を探していたんだ。でもおれは人狼と呼ばれて気味悪がられて、狼になるんだろうって石を投げられて、店で食事をすることもできなかった。子供を抱きしめながらおれに包丁を向ける女性の怯えた顔が印象的でまだ鮮明に思い出せる。おれは人を食べないし狼の姿にはならないが、人にとって俺は人狼なんだなと思って。それで街を出てきて森に入った。そうしたらジェム、君が家に泊めてくれるというから。おれが人間にそんなにしてもらう理由もないし、なら、そういうことか、と」
「……そう思いながら、食事をして、笑っていたのか?」
「食事は本当に楽しかった。こんなにあたたかい時間を過ごせるとはもう思っていなかったし。いい冥土の土産になった」
冥土の土産、とジェムが繰り返す。眉をきつくしかめて、絞り出すように笑った。
「はは、僕たちを信頼していなかったのに、食事に口を付けたのか。警戒するならいくらでもできただろう?」
ジェムの声は震えている。反してロルフの声は穏やかに落ち着いたままだった。
「ああ、毒か?入っているかもしれないとは思ったが。入れたか?」
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