ロルフとジェム

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 目を合わせて三秒、逃げ出したロルフを昼飯に誂え向きの小動物と見たのか、獣は巨大な爪で地面を抉ってロルフを追い続けている。ロルフはいい加減に走り疲れていた。大きな獣が通れそうにない道を必死に探して、ぐいと木々の枝を掻き分ける。枝葉が掠った頬は小さく痛み、極限状態と相まってロルフの心を刺激した。  ここで運良く逃れられても、町には戻れない。ずっとこの森で、食われそうになったり、この四足歩行の獣と同じように獲物を追いかけて食を繋ぎ、生きていくのか。先のことを考えると、じわりと視界が霞んだ。  葉を払うのも面倒になり、頭から木と木の間の狭い隙間に飛び込む。硬い葉を抜けると、その先にいた人間と目が合った。見た目はロルフと同じ、十五、六歳ほどの少年だ。こんなところになぜ、と思ったがそれどころではない。ロルフはぶつかる一歩手前でぎりぎり止まり、 「逃げろっ」 と叫んだ。  急に飛び出してきた獣人にぶつかりかけた挙句に耳元で怒鳴られた少年は紫がかった目を白黒させたが、ロルフの後ろから木を薙ぎ倒して迫ってくる獣を視認すると、成り行きを理解したようだった。  彼はロルフを横にかわして、その背中を勢いよく突き飛ばす。ロルフは走ってきた勢いを殺しきれず、押されたまま茂みに倒れ込んだ。驚いて茂みの中に埋もれたまま獣の来るほうに体を向けると、カッと視界が白くなる。魔獣の吐いた炎の中に、少年の細い体躯が包み込まれるのがちらりと見えた。
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