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ただ空を見上げ続けて、どれほど経っただろうか。
ロルフは夕焼けに染まり始めた雲を眺めた。幸いにも腕の中の少年が眠ってからロルフの命を脅かす獣が現れることはなく、ロルフは穏やかなまま、これまで家の小さな窓から見ていた空を初めて頭上に感じていた。
たまに怖々と寄ってくる小動物と目を合わせてみたり、時には眠り込む少年の豪奢な服によじ登ろうとする虫を追い払ったりしながら空を見上げていると、あっという間に太陽は傾いていった。
じき夜が来る。夜の森はさすがに危ないだろうが、彼はまだ起きないだろうか。少年はロルフの肩に顔を埋めているため、表情は伺い知れない。移動しようにも、身を隠せる場所の心当たりなどロルフにあるわけもなかった。
「どうしよう」
ぽつりと呟く。と、腕の中の少年が呻いた。
小さく息を吐いて、今まで顔を埋めていたほうのロルフの肩に手をやると、ん、と不思議そうに何度か手を彷徨わせる。その手をロルフに付き、もう片方の腕で肘を地面について首を起こすと、至近距離で二人の目が合った。
状況が分からず固まっている少年。ロルフは真顔のまま、彼を抱き締めていた両腕の力を抜いた。
「起きたのか。良かった」
少年は状況を飲み込んだようで、目を大きく開くと上半身を一気にはね上げた。その弾みで、腕を付いていた方の手から何かが落ちたが、気づかなかったらしい。ロルフの腰の上で尻餅を付いたような姿勢になり、混乱した様子で
「あ、っと、すまない」
と膝でロルフの横に下りる。体を起こしたロルフを見て、両膝をついたまま瞬きを繰り返して眉を寄せた。
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