ロルフとジェム

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「…君は、先程の…」 「そうだ。昼間に助けてもらった。ありがとう」 「あれからずっと君は、僕の下でああやってじっとしていたのか?立ち去っていいと言ったはずだが」 「ん?そうだな。こんな所で寝込んで、体を冷やしたりまた何かに襲われてはいけないと思って。ああ、あなたのカバンと服も守った」  その言葉に少年が視線を落とすと、ロルフの向こうに自分の鞄が置かれていた。倒れた時点で持っていかれることも覚悟していたのだが、とロルフを見る。ロルフは灰色がかった瞳で見つめ返して首を傾げた。 「いらないものだったか?」 「あ、ああ、いや。当面の生活費が入っているんだ。見ておいてくれて助かった」 「お礼を言うのはこっちだ。あなたがいなければおれは、あいつに食べられて死んでいただろう。あなたは恩人だ」  疑われていたことを知る由もなく素直に感謝を伝えられ、気恥ずかしい反面、少し罪悪感すら覚えた少年が、いやなに、と言葉を濁す。ロルフは気にした様子もなく、そうだ、と草の上に転がったものを拾い上げた。 「起きた時に落としたようだったが。これもあなたのか?宝石、だろうか。あなたの目の色だな、綺麗だ」 「ああ。…僕の目の色?」  少年は一度頷いたが、またも眉を寄せると訝しむようにロルフの手の中の鉱物を覗き込んだ。ほら、とロルフが日に透かすと、それは確かに彼の瞳に似た、透明な紫色に透き通った。ロルフから受け取り、それをまじまじと眺める。 「…これが僕の左手から出てきたのか?」 「左…そうだな。確かに左手から」  ロルフが状況を思い浮かべ、左右を丁寧に確認して言うと、少年はそうかと黙り込んだ。 「どうした?」 「あ、いや…なんでも。ところでその、僕は眠っている間、うなされたりしていたかな」 「ん?いや、大人しかった。あまりに静かに寝ているから、鳥が何回か止まりにきたぞ」 「…そうか」  少年は難しい顔で手の中の石を凝視したが、やがてふっと顔を上げた。
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