ロルフとジェム

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「君、もし良ければ、今日は僕の家に来ないか。もう日暮れだし、どこに行くにしてもこの時間からじゃそう遠くへは行けないだろう。たいしたもてなしはできないが、夕飯くらいご馳走させてくれ」  顔を上げたジェムはそう提案した。宛もなく、目指す土地もないロルフには断る理由もない。 「ありがとう。せっかくだから呼ばれるよ」 「よかった。ではどうぞ、屋敷はこちらだ。…と、失礼、名前を聞いていなかった」 「ああ。おれはロルフという」 「ロルフ。狼、か」  ロルフを誘って歩き始めた少年の視線がロルフの頭の上の耳に向けられる。ロルフは彼の隣を歩きながら、見ての通り、と耳を撫でてみせた。 「立派な狼、でロルフだ。おれは獣人らしいから。育ててくれたひとが付けた名前だ」  立派な、をわざわざ付け加えたところを見ると、彼にとって譲れないところらしい。少年はこれは失礼、と頷いた。一拍間を置き、目を地面に向けて 「…僕はジェムだ。よろしく」 と名乗る少年。  ジェム、つまり宝石。ロルフはきれいな名前だと思ったが、ジェムの横顔が曇ったように見え、反射的に言葉を飲み込む。 「よろしく、ジェム」  それだけ言うと、ロルフは彼に従って森の奥へ歩を進めた。
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