14人が本棚に入れています
本棚に追加
うんうん、と興味深げに目線を落とすロルフに、ジェムも気を良くし、振り返って鉄柵に絡まらせている蔦の話までも始める。意気込む様子こそ見せないが、その饒舌さから思い入れの強さが伝わってくる。
ロルフが興味深く聞いていると、建物のほうから扉を開く音がした。そちらに目を遣ると、スーツを着込んだ男性が現れた。ジェムとロルフの姿を認めると、深々と頭を下げる。
ぴっちりと固めた金髪を見下ろして、ロルフは少し固まったあと慌てて頭を下げた。ジェムはロルフの肩に手を置いて体を起こさせ、
「ロルフ、君は頭を下げなくていいんだよ。僕が招いた客人だろう」
と少し笑った。
「彼は僕付きの執事だ。なにか不便があれば彼に言ってくれ」
「ニコラ・ロベールと申します。何なりと」
顔色一つ変えずに名乗ったニコラに気おされ、ロルフは「は、はい」とただ頷くことしかできなかった。
「ニコラ、彼はロルフという。さきほど森で倒れた私の面倒を見てくれた恩人だ。今夜泊まってもらおうと思うが、食事の支度は間に合うかな」
「ええ、すぐにでも」
「用意してくれ」
かしこまりました、とニコラが建物に消える。それを確認し、ジェムはロルフの背を軽く叩いた。
「すまないね、いきなり仏頂面の男が出てきて驚いただろう。どうか怖がらないでやってくれ。ああ見えて根は悪い人ではないし、あまり腕っぷしも強くないから」
ふふふ、と愉快げにしているジェムを見ていると、少し緊張が薄れてくる。
「ジェムよりよっぽど強そうだけど」
「おや、こう見えて僕も腕には自信があるんだけどな。獣人の君にも負けないよ」
「ええ?嘘だ」
ジェムの頭からつま先までを眺めて首を振るロルフ。ジェムは
「腕の太さだけが強さじゃないだろう」
とおかしそうに言いながら玄関の扉を開け、ロルフを通した。
空間を満たす暖かい空気が、足を踏み入れるロルフの頬を撫でるように包む。部屋の奥の大きな暖炉の熱が、スキレットの蓋をコトコト揺らしていた。
最初のコメントを投稿しよう!