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…あんな魔力を操れるんだから…私だってできる筈。
私は彼の患部に向かって、回復呪文を唱えた。一番初歩的な、呪文だけど。
少しでも…助かる希望に繋がるのなら!!
翳した両手から淡い優しい光。それを見てメイが言った。
「ステラ!ダメだよ!!あんたまで今の身体で無茶しちゃ…!」
キャロルも心配そうに見つめている…。でも私は構わず光を…わずかながら放った。
―お願い、どうか、どうか気が付いて…!!
***********************
俺は意識の中を彷徨っていた。
俺、死ぬのか?
先ほどから昔のことばかり憶いだしているようだ。
姉と違い期待されなかった分気楽だった、幼少時代。努力なんて無縁の、適当にしていた思春期の初め。しかし、そんな俺を魔性が変えた。とても皮肉な形で俺の根本から。
それから魔性に心を壊されたときに、旅先で出会った彼女に救われて…それからただただ、強くなって魔性を倒すことだけを心の支えに…生きてきた。
生まれながら神に愛でられた素質を持っていた姉は、次期女王でもあり国民や両親の期待を一身に受けていた。彼女は魔法も魔法陣もいとも簡単に幼少時から使いこなす…スフィーニの誇る、聡明な女賢者だったのだ。
しかし、あのペンダントはこの世に俺が生まれ落ちた瞬間に、光ったという。姉と比べて凡庸なこの俺に!
魔性が国を…俺を襲ったあの日、父も母も、姉も妹もとにかく俺を必死に護った。そして…家族は姉以外皆、死んだ。姉は奇跡的に右目の負傷だけで、済んだ。…姉も、護られたのだ。
「大切なものは…ちゃんと捕まえておいても、いつかするりとどっかに行っちゃうものだね…」
姉は俺にそう言った。未だに左薬指の指環を外さずに。
「だから、大切なものは、きちんと掴まえておいてあたりまえなんだよ。後悔しない様にね…」
微笑むフィレーン。…温かい光を感じるよ。
ああ…俺は生きなければならないんだ…!!
そう思った瞬間、俺は昏(くら)い眠りから目覚めた。静かに瞼を動かす。ぼんやりと歪んでいる視界。少し吐き気を催す。刺された肋(あばら)が痛むが、そこに、温かい光が感じられる。
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