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ステラは不思議そうな表情で、彼を見た。でも彼女からは何も言葉が掛けられなかった。
あんなことを…彼にはしてしまったのだもの。ステラはまだ自分を責めていた。しかし当の彼は壁に寄りかかり、少し窓の外を一瞥してから、刺された個所を軽く押さえて口を開いた。
「…お前、凄いな。マジで死ぬかと思った。」
何故か彼は、少し微笑んでそう言ったのだ。
「ごめんなさい。…本当に取り返しのつかないことになりそうだった。」
「確かにな。」
そして、お互い口を閉ざす。少し開いた窓から涼しい風が吹く。気まずいなとステラは思った。水辺の告白の後の惨事。どういう風に接すればいいのか、わからない…。
「傷は…?」
「まぁ、もう大丈夫だ。」
リーディは、脇の肋の部分からそっと手を離し、ステラの方を向いた。
風に吹かれて、彼女の銀色の髪が揺らめく。
一方、急にこちらを向いた彼に対してステラは居た堪れない所存で
彼から目を逸らした。
―もし記憶が戻らなかったら?もし自分があの時死んでいたら?
リーディはそう仮定した時の後悔の嵐をたやすく予測できた。彼女に本当の想いを伝えずにいたことを。そして昏睡状態にいた時に、かつてフィレーンが言っていたあの言葉が思い出されて頭の中を駆け巡る。そして彼は意を決して口を開いた。
「ステラ、こんな時にあれだが…」
ステラはそう言われてリーディの顔を見た。いつも以上に真剣な表情だ。
「…どうしたの?」
「俺、目覚める前にいろいろな夢を見たんだ。それは過去のことだったり。」
「うん」
「で、俺はずっと、昔の国の惨劇のことを悔やみ、その原因となった魔性を倒すことだけを生きる糧にしてきた。それは今も変わらない。もちろん封印を解く者の使命もあるけど…実際の心のうちはそうだった。だから本懐を遂げるまで、少しでも妨げになる自分の気持ちからは目を背けていた。」
彼の涼しげな瞳が熱を帯び始めた。ステラは少し戸惑いつつ、彼を見つめ続けた。
「それじゃダメだって、操られたお前に刺されて、死にそうになって気が付いた。」
「リーディ?」
ステラは壁に寄りかかっていた彼がこちらに歩んできたのでつい、呼びかけた。リーディは彼女の呼びかけに構わずに、ちょうど寝台に座っている彼女の真正面に立った。そして少し間をおいて、こう言ったのだ。真摯な眼で。
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