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コウは、宿の主人にしばらくの宿の滞在を願い出た。主人も昨晩の客人の異変で心得ていた。
どうやらこの一行の女性の一人の様子がおかしいということなのだが、何かあったのか?
店主はただ、滞在を受け入れて見守るしかできなかった。
ステラは寝台に横たわり、物憂げな眼で窓の外を見ていた。彼女はどうして今ここにいるのか、憶い出せなかった。そして巻き毛のシスターと、黒髪の細身の女性が代わる代わる心配そうに自分を見るのだ。
「ステラ、具合はどうなの?」
巻き毛のシスターが声を掛けた。
…私の名前はステラっていうのか。
そう思いながら彼女は静かに首を振って答える。
「平気だけど…どうして私はここに…?」
黒髪の少女…がそんな彼女を見て泣きそうになっている。黒い瞳にいっぱい涙を湛えて。
「ステラ…本当に何もかも忘れちゃったの?」
そう言いながら、ステラの身体を抱きしめる。
彼女自身はそう問われては困っていた。本当に何も憶えていないのだから…。
しかし、この女性に泣き付かれてしまいどうにか自分自身のことを必死に思い出そうとした。
すると頭の奥の方が急に痛みだすのだ。
「…ごめんなさい…。」
ステラは自分を抱きしめている黒髪の女性の背中を優しくさすった。
しばらくして、扉の開く音がした。
キャロルが振り向くと、そこにはリーディとコウが立っている。
「主人には言っておいたよ。」
「わかったわ…。」
キャロルは静かに微笑むと部屋に二人を招き入れた。
男性二人はステラを見た…夢を見ているような眼差しでベッドに佇んでいる姿を。
それはまるで別人のように儚げで、彼らは戸惑った。
「全て忘れているのか…?」
リーディはキャロルにそう問いただす。キャロルはゆっくり頷いた。
「まったく、何も。」
ステラは、ふと男性陣二人に気が付き、そちらを見た。
「あなた達も…私を知っているの…?」
いつもの凛々しい彼女ではなく、まるで無垢な赤子のような瞳で。
すると突然リーディが、彼女の腕を引っ張りベッドから引きずり出したのだ。
「!!」
「リーディ!!」
キャロルが慌てて止めようとするが、
構わず戸惑うステラの腕を掴み皆に言った。
「ちょっとこいつを、外に連れ出す。」
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