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そして数日経ち…。
曇天。
そう、その日の夕方に、再び嵐がやってきた。
山の天気は変わりやすいといえども、こう頻繁だと土砂崩れなどが心配になる。
相変わらずステラは夢心地でキャロルの部屋で佇んでいるだけ。
食事は宿の食堂にて皆で摂るのだが、部屋から出ようとしないステラを見かねて主人の妻であるおかみが、温かいスープを運んでくれた。
いつもなら盛んな食欲を見せる彼女なのだが、あまり食べられなくなったのだ。
「ステラ、少しでもいいから食べないと身体壊すわ。」
キャロルにそう言われて不承不承スープを飲む。
飲みながら彼女は、フランベルジェを無理やり持たせた青年を思い出した。
必死で私の記憶を呼び覚まそうとしていた、彼。あの時…お前は勇者で、この剣(フランベルジェ)で闘って来たのだと。そう言っていた。
事実身体は闘い方を覚えているようで確かに彼の剣を打ち返した、無意識に。
闘っていた記憶…それだけはうっすら覚えている。でも、何故闘ってきたのか、憶い出せない。
静かに吹きすさぶ木々を見ていたら、まだ心の中で自分を呼ぶ声が聞こえた。
誰?と思いきや急に燭台の炎が消えて、稲光が彼女の顔を照らす。
―「我のステラよ…来るが良い」
その声を聞いた瞬間、彼女の眼がカッと見開かれた。
スプーンを持つ手が緩んで、それを落とす。
彼女は操られるように声のする外の方へ歩き出した。
今度は、手にしっかりとフランベルジェを握りしめて。
夜が更けた。嵐はだんだん強くなる。どこか遠くで雷が轟き、稲妻が空の端を照らしはじめる。
夕食時。
「もしかしたら、洞窟付近の崖とかがもう崩れているかもしれない…。」
主人が食堂の窓外を見ながら呟いた。
「一度外に出て、暴風戸を閉めてきたほうがよいかと」
「さっき2階から渓流を見たけど、大反乱でしたわ」
キャロルがそう呟くと
「この宿は大丈夫か?」
リーディが肩をすくめる。
「ここは地盤が岩なので大丈夫です、ですから昔からの集落があるのです。」
そう主人が答えた瞬間、ぴかりと雷鳴が轟く。
「ひー…。雷の音がすごい。」
メイは、蒼い稲光を感じながら外を眺めた。
ゴロゴロゴロ…一瞬の雷光で外が照らされた時に、彼女は外に誰かがいることに気がついた。
「…ステラ??」
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