3人が本棚に入れています
本棚に追加
【 穏やかな目覚め 】
ゆっくりと背を起こされ、口許に固くて冷たいものが押し付けられて重い瞼を上げた。ベッドヘッドを背にしたアランの胸に抱かれ、口許に水の入ったコップを当てられていたのだ。喉が渇いてヒリヒリする。水を飲もうとするカイルに、
「慌てんな。ゆっくり、ゆっくりな」
噎せないよう調節しながら水を飲ませてくれた。喉が潤い、人心地ついても頭はボーッとしていて身体が重い。痺れてるのに腰の奥にまだ何か挟まってる感触が居座っていたが、汗に塗れていた肌も汚したシーツも気を失っていたうちに綺麗にされたらしく、さらさらしていた。足の間にカイルの身体を挟み、背中に凭れさせてくれてるアランの腕には、数本の赤い線が浮いている。
そっと、自分がつけた痕を指でなぞった。
「傷、ちょっと血が出てたから変えた。無茶して悪かった」
途中、外れてしまった包帯が真新しいものに交換されていて、夢現の間に鎮痛剤も飲まされたらしい。
「……ううん」
銃で撃たれた傷のことなんて忘れていた。言われてからじわじわ痛みだしたくらいだ。
「眠い……」
呟くカイルの髪にキスをしながら寝転ばせてくれて、そのまま一緒にアランも寝ようとする。
「アランもここで寝るの?」
薬による眠さと、疲れによる眠さでぼんやりした響きになった。
「俺も眠いんだけど、一緒は嫌?」
薄暗い部屋の中、あまりはっきりと表情は見えないが、躊躇う雰囲気が伝わってきた。じゃあ、ここでカイルが一緒に寝るのは嫌だと答えたら出て行くんだろうか?―――カイルを一人残して。
「嫌じゃないよ……っていうか、ここ、アランの部屋だろ」
一人取り残されるのは嫌だ。目の前の胸に額をつけ、ここにいろと訴えた。アランにはカイルが甘えたようにしか見えなかったみたいで、ふっと身体の力を抜いて頭を撫でる。
「寝ていいぞ。朝になったら起きたくなくても起こされるから」
明日は近場の港に燃料その他の買い付けに行く船が出ると言う。
手伝わなきゃ…と思いながら、子供をあやすようなアランの手つきに睡魔を誘われる。
規則正しく軽く背中をポンポンと叩かれるのは、落ち着いてきた心臓と同じリズム。
そして、触れた肌から伝わる心臓のリズムと一緒だった。
眠りに落ちる瞬間に見たのは、幸せそうに口許を綻ばせるアランの微笑みで。温かさと優しさに包まれて眠った。
最初のコメントを投稿しよう!