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雨に打たれて歩きながら、僕は思い出す。
「通り雨のことを英語でシャワーという」と真央は言っていた。
この雨がもし「シャワー」なのだとしたら、僕たちの傷を、洗い流してくれるのだろうか。
僕は傷ついた。そして真央はそれ以上に傷ついたはずだ。
胸が震える。
我慢ができなくなって、僕は走り出す。
森川が言っていたことを、再び思い出す。
「言わないと、絶対に後悔する」。
真央は、自分の想いを伝えることができなかった。
この雨が彼女の傷を洗い流してくれなかったとしたら。
そのとき彼女を癒してあげられるのは誰だろう。
その問いの答えが、僕であってほしい、と思った。
そうなれるかどうかは分からない。だけど、彼女の傍にいたい、と思った。その想いはきっと、自分の心に空いた穴を埋めてもらいたい、という僕の願いと表裏一体のものなのだろう。
僕は走る。真央に追いつくために。
彼女の傷や涙や後悔を、僕がすべて洗い流してあげられたとしたら、そのときはじめて、僕は彼女に自分の想いを伝えよう。
秋の通り雨は、なおも激しく、僕の体を叩き続ける。
その雨は、とても冷たくて、しかし同時に、とても温かいような、そんな気がした。
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