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だからこそ彼女は意図せずして、左耳を触ることで隠している感情を表すようになった。
祐吾には見えないよう。
だから、その癖を、僕だけが知っている。
「ごめん。折り畳み傘、持ってたのに、あの二人に貸しちゃった」
外を見る。長い通り雨はまだ、降り続いている。
「……見てたよ」
「私、また嘘ついた。『私の分の傘はあるから。これを使って』って」
二人に傘を差し出した真央の心は、どれほど痛かったことだろう。
彼女は自分の想いを諦めて……。
「……真央は優しいよ」
「ふふ、ありがと」
真央は悲しげに笑った。そして、
「私、今日は一人で帰るね」
「えっ、でもまだ雨が」
「大丈夫! ほんと、ありがとね」
悲しげに微笑みながら、彼女はそう言った。
そして真央は靴を履き、こちらに小さく手を振った後で、走っていった。
傘も持たない彼女は、雨に打たれながら駆けていく。その背中は、儚くて、とても美しかった。
僕は何も言えず、その様子を見つめていた。
下駄箱に置いていた靴を履く。
もちろん傘は持っていない。だが、僕はそのまま玄関を出る。
まず、頭に冷たい感触があった。そして制服の肩に、ぼたぼたと雨粒が落ちてくる。
前髪が濡れて、水が滴り落ちてくる。すぐに僕の全身はびしょびしょになる。
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