2/3
前へ
/41ページ
次へ
 だからこそ彼女は意図せずして、左耳を触ることで隠している感情を表すようになった。  祐吾には見えないよう。  だから、その癖を、僕だけが知っている。 「ごめん。折り畳み傘、持ってたのに、あの二人に貸しちゃった」  外を見る。長い通り雨はまだ、降り続いている。 「……見てたよ」 「私、また嘘ついた。『私の分の傘はあるから。これを使って』って」  二人に傘を差し出した真央の心は、どれほど痛かったことだろう。  彼女は自分の想いを諦めて……。 「……真央は優しいよ」 「ふふ、ありがと」  真央は悲しげに笑った。そして、 「私、今日は一人で帰るね」 「えっ、でもまだ雨が」 「大丈夫! ほんと、ありがとね」  悲しげに微笑みながら、彼女はそう言った。  そして真央は靴を履き、こちらに小さく手を振った後で、走っていった。  傘も持たない彼女は、雨に打たれながら駆けていく。その背中は、儚くて、とても美しかった。  僕は何も言えず、その様子を見つめていた。  下駄箱に置いていた靴を履く。  もちろん傘は持っていない。だが、僕はそのまま玄関を出る。  まず、頭に冷たい感触があった。そして制服の肩に、ぼたぼたと雨粒が落ちてくる。  前髪が濡れて、水が滴り落ちてくる。すぐに僕の全身はびしょびしょになる。    
/41ページ

最初のコメントを投稿しよう!

13人が本棚に入れています
本棚に追加