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 僕と祐吾と真央は、幼稚園の頃からの幼馴染だ。  ご近所さんということもあり、僕たちはいつも一緒に遊んでいた。  喧嘩をして誰かが泣くこともしょっちゅうだったけれど、それでも僕たちはずっと仲良しのままだった。    そのまま三人とも、同じ小学校に入った。そして中学校に進み、思春期を迎えても、僕たちの関係は特に変わらなかった。  それはきっと、互いが互いを異性として意識していなかったからだろう。そのときまでは確かに、僕たちは純粋な友達だった。    だけど、いつからだろうか。僕は、いつも隣にいる真央のことを想うようになっていた。  彼女の、女の子にしては少し低い声や、ぱっちりとした目、長いまつ毛、ぴしっと揃えられた前髪、小柄な体型、それでいて大きな胸、くしゃっとした笑顔。  それらすべてが、いつの間にか僕にとって大切なものになっていた。    しかし僕は、この想いを告げることができないでいた。三人の関係が崩れることが嫌だ、というのも勿論だったが、何よりも真央に拒絶されることが怖かった。二度と真央の傍にいることができなくなったら、と思うと、僕はとても恐ろしかった。  しかし、だからといって何も行動を起こさないのも、僕にとって辛い道だということは分かっていた。  僕が想いを伝えなければ、いずれ真央は、僕以外の誰かと結ばれてしまう。  その相手は、僕よりもずっと優れた奴かもしれないし、僕よりも魅力が低い、どこの誰かも知らない奴かもしれないし、はたまた、よく知っている祐吾のような身近な人物だったりするのかもしれない。  それが誰にしろ、想像するだけで僕の心は締め付けられた。痛くて苦しい。だけど、真央のことを考えずにはいられない。 「真央……」  自室のベッドの上に仰向けになり、天井を見つめながら、僕は彼女の名前を呼んだ。  当然、返事はない。  一人の部屋にこだました声に恥ずかしさを覚える。僕は自分の腕で目を覆い、また真央の姿を思い浮かべる。    僕が思い出すのは、いつも、左から見た真央の顔だ。三人で歩く帰り道。僕はいつも彼女の右を歩いていて、その角度から見る横顔が、熱く焦げるほど、目に焼き付いていた。    そしてだからこそ僕は気づいていた。彼女のあの仕草はきっと……。    心に浮かべた真央の顔がたまらなく愛おしくなって、彼女のすべてが欲しい、という衝動に駆られる。その欲望を自分のなかから消し去るために、僕は自分を慰めた。  後処理をした後で、僕は目を閉じてうつ伏せになる。泥のような倦怠感と、鉛のような罪悪感とが、僕の胸に溢れる。  真央の顔を思い浮かべたまま、僕は眠りについた。            
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