第六章 君を探すよ 三

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「これは幻でしょうか……兄さんが目の前にいる……」 「幻でしょう……」  嫌な予感がするが、新悟の記憶が戻っているような気がする。新悟は、少し頭を押さえて唸ると、じっと俺を見つめた。 「……そうか……兄さんは、俺を生き返らせる為に取引をしたのか……死保は、兄さんを手放さない。兄さんを手放さなない為の手段として、死保は俺を確保していた」  生き返った新悟には、死保の記憶が無いと聞いていた気がする。でも、新悟の口から死保と聞こえたような感じがした。 『記憶というのは曖昧で、肉体が無くなっても記憶が残っているでしょう。幽霊にも記憶がある』  明海がさりげなく解説しているが、明海の言葉にも新悟は頷いていた。 「そうですね。肉体と記憶が分離していましたが、兄さんを見て、しっくりと落ち着いた気がします」  新悟の俺を見る目が、一変していた。先程は確認するような、探るような目であったが、今は馬鹿な兄を見る、しっかり者の弟の目に戻っていた。 「兄さん、どこに住んでいるのですか?松下さんの所ですか?」 「黒羽の所だよ……」  黒羽の名前を聞いて、更に新悟が頷いていた。     
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