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兄さんがいたずらっぽく冷蔵庫を指差して、開けてご覧、と囁いた。
俺は半分不審に思いながらもすっかり材料の無くなっただろう冷蔵庫を開ける。
「作っておいたよ」
兄さんの顔を見た。ウィンクしてる。
え、好き。
「なんで俺が食べたいものが分かったの?」
「顔に書いてあったから」
苺とチョコレートのケーキ。
ずっと前に食べたやつ。
「嘘」
「……分かるよ」
それに、と兄さんは続ける。
「翔にも食べて欲しかったから」
恥ずかしそうに笑う兄さんはやっぱり可愛いし、なんか笑い方がばあちゃんに似てる感じがした。ばあちゃん元気かな。じいちゃんと仲良くやってるよね。母さんも元気なんだろうな。俺は自然と胸元のリボンに触れる。
「……みんなで食べたらもっと美味しくなるよね」
「そうだね」
兄さんはいつでも変わらない。俺がちびだった頃からずっと。
だからもし俺と兄さんの関係が変わるとしたら、それは俺が変わってしまったってことなのかもしれない。
兄さんはそれを、成長だって喜んでくれるのかな。
「……兄さん、俺……」
ユキと恋人になったんだ。
言おうと思ったら、人差し指で唇に触れられた。
「言わなくてもいい」
兄さんは子どもっぽい顔で言う。
「……見たら分かるから」
俺は笑う。ちょっと寂しかった。そんな気持ちを察したのか、兄さんは俺の頭を撫でる。兄さんにとっては俺はいつまでもちびのままみたいだ。
「ノエルが幸せだと僕も幸せだよ」
笑顔が水みたいに溶けていく。
いつの間にか俺と優月兄さん待ちになっていた。騎一とカケルは食器の問題は終わって、今度は食べる順番について討論していた。郁はビーフシチューしか眼中に無い。
お前らもう好きなように食えよ。
ずっと喋ってる俺を見かねたのか、ユキが迎えに来てくれた。
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