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「ノエルの気持ちを考えると……胸が苦しい」
絹さんに連絡してみたけれど、歯切れの悪い言葉が返ってきただけだったと翔は言っていた。でもノエルのことをとても気に入ってくれてよくしてくれたみたい。
ノエルはそんなに、誰かに特別嫌われるような子ではないと思う。でも一番好いて欲しい人に気持ちが届かなかった。
「そんな暗い顔しないで。ノエルが気を遣うから……後悔してないよノエルは。したいことやったんだから。だから……笑って、優月。俺に……もうすぐ二人きりも終わっちゃうし」
ちょっと残念、と翔はちゃかすように笑う。
これくらい笑い飛ばせたらいいのに。
僕は何ごとも重く考えすぎるのかな。でもノエルが悲しい気持ちになってたら悲しい。だってノエルのことがすごく好きで大切だから。
不意に首筋に息がかかった。刺激に体が跳ねる。
「んっ、……! っもう! やめてよ……」
抗議するように翔を見上げたら唇を塞がれた。
「……っ……」
力が強くて顎が上を向く。背中に翔が手を回して僕を支えると、僕の背中で結んでいない髪がさらさら広がった。激しい口づけに動揺しながらも、僕もなんとかそれに応える。
彼の胸に置いていた腕が痺れ落ちそうになったころ、ようやく唇が離れていった。
肩で息をしながら愕然としている僕を尻目に、彼は僕を包み込むように強く抱きしめる。
「少しは俺のことも考えていて欲しいけどな」
この人は。
僕はばか、と言って笑う。
首に腕を回して抱き着く。
思ってるよ。
なにノエルに嫉妬してるの。おかしい。
「考えてるよ」
「好き?」
「好きだよ」
「愛してる?」
もうほんとばか。
「愛してるよ」
ずっと傍にいてよ。
心の中で言った。
翔は俺も、って笑って僕を抱きしめた。
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