act.27

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act.27

 熱い。  すごく熱くて息苦しい。  藻掻くように息をしていた。お湯の中に沈んでいるように全身が火照ってぎすぎすする。上手く動けなくてどうしようと思ったら目が開いた。  見たことのある天井だった。絹の家だ。寝室として一部屋借りていたところの。俺が天日干ししてシーツも綺麗に洗ったぴかぴかのお布団。  灯りは点いていなかったけど、ビルや街灯の灯りで部屋は薄暗く照らし出されていた。雪が降り積もった丘のように静かだった。  今何時だろう。昼寝してたんだっけ。  目を何度かぱちぱちしたけれど、なんだか目を開けた時に感じた違和感が拭えない。見え方がおかしい気がした。目を擦ろうと思って左腕を動かそうとすると、全身に激痛が走る。筋肉痛とか成長痛とか、そんなんじゃない。もっと暴力的で外側にある刺激的で泣きたくなるような痛みだ。  なんだ?  左手に静かな息づかいを感じた気がして、そっち側を向こうとしたけど、首もやっぱりぎすぎすする。てか顔痛い。  やっとのことで左を向いたら、そこには人の顔があった。  薄暗いほのかな光に反射している瞳は星空みたいにきらきらしていて、それが誰だかすぐに分かる。でもすごく泣いていた。今まで見たこともないくらい顔を歪めて泣いている。  もしかしたら初めてみたかもしれない。  ユキが俺の隣で横たわって、俺を抱きしめながら泣いている。  ばっちり目が合った瞬間、彼はもっと顔を歪めて泣き出してしまった。  体中すごく痛かったけれど、俺は彼の顔に手を伸ばさずにはいられない。  ほっぺに絆創膏がついている。 「……ユ……キ」  声が上手く出なかった。口、めっちゃ熱い。めっちゃ痛い。 「な、んで、泣いてる……? だい、じょう……ぶ?」  伸ばした指先で彼の目縁に溜まった涙を掬うと、ぶわ、と彼の香りが薫ってくる気がした。頭がぼーっとして眩暈がするけど、ユキが隣にいてくれるだけですごく嬉しかった。  俺の腕にはぐるぐると真っ白な包帯が巻かれていた。  ユキが悲しそうな顔を少し振って、優しく包み込んでくれる。胸にすっぽり顔が埋まって、彼の顔が見えなくなった。彼は俺の髪を歪に梳く。
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