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act.28
体を清めた後も彼は俺を離さなかった。後ろから包み込むように俺を抱いて、冬が通り過ぎるのを待っているリスみたいにじっとしている。なにも言わない。俺は抱き枕じゃないんだけど。マジで寝たのかと後ろを向くと、なに、と言うように首を傾げられる。
俺は俺でユキの温もりとか呼吸とか、彼を感じてすごくどきどきするし、同じくらい幸せになった。
聞けばまだ夜の十一時を過ぎたところで、絹は未だに仕事に追われているらしい。
午前中から今まで三日くらいの日がすぎたような気がしていた。まだクリスマスイブなんだ。いろんなことがありすぎた。
一日ってこんなに長かったのか。
「寝ないの?」
なんとなく言ってみた。いつもなら十一時はすっかり眠っている時間だ。いつもの三倍は疲れているし体はぎすぎすしていたけれど、へんに興奮しているのとさっきまで寝ていたことが相まって、ふしぎと眠気を押えつけられている。
眠くないと言ったら嘘になるけれど、眠気に抗えないほどではない。
「ノエルが寝たいなら寝る」
質問の答えになっているのかなっていないのか微妙な答えだ。
俺は唸る。うーん。
寝たいは寝たいけど、でも……。
「クリスマスらしいこと、なにもできなかったな」
少し諦めたように呟いた。
そしたらユキがえ、と驚いたように言う。
「今してるじゃん」
「え?」
「恋人とエロいことして一緒にいる」
「……は?」
俺は思わず彼の顔を二度見した。
ユキが俺の怪訝そうな顔を笑い飛ばしてひときわ強く抱きしめた。
「この街ではそれがクリスマス」
俺の疑念を理解したような言葉だった。ちょっと距離があるだけで、こんなにイベントの見方が違うなんて本当に不思議だな。
「……ケーキ食べる?」
その一言でケーキのことを思い出した。
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