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「俺、どうすればいい?」
そう言葉を吐いたのをきっかけに、遠田は泣き出した。そしてゆらゆら震える声でまた繰り返した。
「どうすればいい……」
嗚咽をもらしながら苦しむ声に私は固まった。
携帯を握る手が震え出す。
こんな時……こんな時……私は何をすればいい。
「……っ」
どんな言葉をかければいいのか分からない。
己の迷いは次第に、何も言葉が出ない自分を攻めるようになっていく。
私が呆然としている合間にも、遠田の泣き言は受話器を通して聞こえていた。
「なぁ……」
遠田は裏返った声を必死に我慢している。
泣きなれていない彼にとって、自分の弱々しさを人にさらけ出すのは、残酷なくらい痛い時間であるのは分かっている。
私は何度も口を動かし、言葉を探した。
「……い、今どこにいるんだ」
鼻をぐずぐずにさせて、遠田は答える。
「最寄りの駅だ」
「そこで待っていろ。迎えに行く」
「ああ……分かった。ちゃんとまってるよ」
今や子供みたいにしゃっくり上げて泣いている。なんだが受話器の向こうに、小さい頃の遠田がいるように感じた。小さな手で涙を拭う幼い彼の姿なら簡単に想像ができるのに。
背の高くなった遠田がどんな顔をして泣いているのかは分からない。考えられない。
「ごめんな……らしく…らしくなくて」
遠田はなかなか電話を切ろうとしなかった。
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