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「遠田」
ベンチに腰かける影に声をかけた。
しとしと陰気臭い雨が降る駅に急いでやってきた。 奴の泣き声を悪夢のように思い出しては走り、疲れて立ち止まっては、また思い出して走りを繰り返した。
汗と雨の混ざった最悪な液が服を濡らす。
「佐野……」
赤く腫れた瞼を恥じるように、遠田は私を目で確認した後直ぐに顔を逸らした。
上がった息を整えながら、何度も汗を拭った。
兄にはバレていないだろうかと、ふと考える。いや、そんなこと言ってらんないだろう。
あの執着に囚われる必要などない。いまは友達が大事なんだ。
私は疲れきった足を地面に滑らせ、遠田の横に座った。遠田は顔を隠すように下を向いている。
「珍しい事もあるんだな……話なら聞くよ」
雨に晒された遠田の冷たい肩に手を添える。あまりの冷たさに、銅像でも触っているようだった。
「ありがとう……」
力ない笑みを私に向ける。
痛々しいほど、弱々しかった。
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