泣き言

5/6

12人が本棚に入れています
本棚に追加
/49ページ
「遠田」 ベンチに腰かける影に声をかけた。 しとしと陰気臭い雨が降る駅に急いでやってきた。 奴の泣き声を悪夢のように思い出しては走り、疲れて立ち止まっては、また思い出して走りを繰り返した。 汗と雨の混ざった最悪な液が服を濡らす。 「佐野……」 赤く腫れた瞼を恥じるように、遠田は私を目で確認した後直ぐに顔を逸らした。 上がった息を整えながら、何度も汗を拭った。 兄にはバレていないだろうかと、ふと考える。いや、そんなこと言ってらんないだろう。 あの執着に囚われる必要などない。いまは友達が大事なんだ。 私は疲れきった足を地面に滑らせ、遠田の横に座った。遠田は顔を隠すように下を向いている。 「珍しい事もあるんだな……話なら聞くよ」 雨に晒された遠田の冷たい肩に手を添える。あまりの冷たさに、銅像でも触っているようだった。 「ありがとう……」 力ない笑みを私に向ける。 痛々しいほど、弱々しかった。
/49ページ

最初のコメントを投稿しよう!

12人が本棚に入れています
本棚に追加