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「実家に行って親と話したんだ」
ぽつりと枯れた声で話す。
「俺、引っ越さないと……凄く遠くに引っ越さないと行けないんだ」
私は思わず首を傾けた。
確かに、友人が遠くに去っていくのは悲しい。
だが、もうすぐ大人になろうという歳の男が、それだけで泣き崩れるものだろうか。
「でも……」
一生会えないわけじゃないだろうと言いかけたが、私は悟った。
遠田の悔しそうな表情。
ああそうか、転校するんだ。
必死に勉強して特進科に入ったと言うのに、全てなかった事にされるのだ。
私はかける言葉もなくなって、ただ遠田の震える唇を見つめるだけだった。そして、次第に遠田を可哀想に思う気持ちが押して、彼の冷たい手を握ってやった。
追って、ぬるい涙が手に落ちる。
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