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やや年嵩ではあるものの、すらりとした体躯も堂々としたもので、これからの行為を思い浮かべれば心が踊った。
「名をお聞きしても?」
男がかんざしの揺れる頭を見下ろし問いかける。
「馨。あんたは?」
この辺で使う名のひとつを口にする。かんざしの先で梅の花が揺れた。
「之成、と申します」
それが実の名かどうかなどどうでもいいことだ。並び歩くように見せつつ、俺は今夜の獲物を品定めしていた。
小さな鼻歌を口ずさむ俺の頭上で、すぐ今まで人の良い顔を見せていた之成がどんな顔をしているかなど、気づく術はない。
馴染みの連れ込み宿はすぐそこだった。むしろ近いからこそあの場で獲物を見繕っていたのだ。暖簾をくぐれば顔見知りの店主が訳知り顔に笑ってみせた。
「ここにはよくおいでになるのですか?」
「そういう野暮は言うもんじゃねぇよ」
怪しげに笑ってみせると、店主の指差す部屋へと之成を誘った。
飲ませて潰してしまう手もあった。しかし、一目見た瞬間、その堂々たる質感を見せつける身体に興味が沸いたのだ。
せめて、いい目を見せてやるよ――。
内心にほくそ笑むと、閉まった扉と同時に高そうな背広に手をかけた。
「なんだこれ。釦邪魔くせぇな」
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