はきだめに色盗り…前編

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 空いた手が流れるように互いの衣服を剥ぎ落としていく。ここはそのための場所だ。甘い睦言(むつごと)などは必要ない。  俺の着流しなどそのために帯すら柔く締めてある。之成の背広は少々厄介だった。この界隈で、こんな上等な服を着た男などまずいない。半ばむしり取るように釦を弾き、ネクタイに手をかけた。むやみに引っ張ったそれは、嫌がらせのように結び目を固くし、之成が苦笑いを浮かべる。 「(ほど)けねぇ」  そう睨むと、俺の腰に添えられていた手が優雅に持ち上げられ、首元の結び目を覆った。骨ばった長い手指。その指先が結び目にかかり、するりと横へずらせば、手品のように一本の紐ができあがる。  俺は真っ白な開襟シャツの首元をまた苦心して広げた。隆々とした肉などではないが、太い骨格に乗せられた彫りの深い筋は、むしゃぶりつきたくなる色気だった。灰色の髪からは四十をとうに超えているかと思えたのに、反してその肉体はたるみもない。  伸びあがり、筋張った首に口づける。襟を押し広げながら鎖骨の窪みに舌を這わせた。  之成の手が帯を解き、俺の肩から着物を背に落とす。俺は肘で止まった着物を腕の一振りで落とすと、足で蹴り避けた。     
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