1.プロローグ

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 14歳の夏頃だったろうか。お風呂場から出て濡れた髪をワインレッドのバスタオルで乱暴に拭いているとき、ぐいっとバスタオルを引っ張られた様な気がしたから、引っ張られた方を見ると、赤い七五三の着物をきた少女がにっこりとこっちを見て笑っていた。びっくりしすぎて1秒も満たないうちに瞬きをすると、その少女の姿は見えなくなっていた。  そんな微ホラー体験をもう一つ挙げるのであれば、静岡県の小山町と言われる山奥に住んでいた6歳くらいの夏頃、深夜にうちのインターホンが鳴り、四兄弟の三男だった俺だけそのインターホンで目が覚めた。玄関の前の廊下には大きな窓が3枚あり、そこから玄関前の様子が見えるようになっているから、流石に小さかったころの自分でも直ぐに玄関を開けるなんて愚行はせず、そこから様子を見ようと思ったことを今でも鮮明に覚えている。  まあ、定番ホラー映画なんかでよくあるように、もう少しでインターホンを鳴らした人物が見えそう!なんて瞬間に、木製の野球バッドを持った父親が俺に声をかけてきたため、誰が押したのかは知ることはなかったけれど。ただ、体重90キログラムを超える土木の社長が木製のバッドを持っている方が、今思えばとてつもなく恐怖だと思う。  結局次の日父に聞いたところ、誰もいなかった。と言っていたので、真相は定かではないのだが。  夏。という季節には、こんなホラー体験がいくつも話題にあがる。怖い話を聞くと涼しくなるなんて言うくらいだから、夏にはうってつけの話ではあると思う。そして実際の心霊現象も夏になると良く耳にすることになる。  つい6年ほど前だろうか。6歳、14歳と微ホラーを体験してきた俺にとって一番ホットな心霊話が出来た。  いや、心霊話というには、あまりにふざけていて、あまりに青春で、あまりに切ない。  物語というにはあまりに馬鹿らしい。  そんな短くて、でも長かった夏休み最後の一週間の小さな話。
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