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バン、と荒々しくふすまが開けられて小さな影が飛び込んで来た。
「パパ起きたー!!」
小さな弾丸は、史貴に向って飛びついてくる。
完全に不意を打たれた史貴はそのまま布団の上に転がった。
「やあ、康貴。おはよう」
「おはよー」
史貴の息子、康貴は元気良くそう言ってケタケタと笑う。
「おはよう、あなた」
「おはよう、梨恵」
ふすまの傍に立ち、寝室を覗き込む、今は妻となった梨恵は息子に伸し掛かられる父親の姿を見て、あの頃と同じように笑顔を浮かべていた。
「パパ、おしゃかなー」
「魚?」
「水族館行きたいんだって」
「ああ、そう言う事か」
「良い天気よ」
梨恵にそう言われ、史貴は康貴を抱えて立ち上がる。
急に高いところに持ち上げられた康貴は、きゃっきゃとはしゃいでいる。
そのまま窓際に行き、カーテンを開ける。
白い光に一瞬視界を奪われる。
目が慣れてくると、夢で見たのとそっくりな、鮮やかな青空が飛び込んで来た。
「ドライブ日和だな。朝飯食ったら車で出掛けるか」
「おしゃかなー」
「そうだな、康貴。魚見に行こうな」
わーい、と大はしゃぎを始める康貴を御しきれず、史貴はそっと布団の上に降ろした。
「じゃあ、朝ご飯の支度するから、あなたは顔を洗って来たら?」
その康貴の傍にしゃがみ、頭をなでながら梨恵は史貴に向けてそう言った。
「ああ、そうするよ」
寝室を出たところで、ふと足を止めて振り返る。
「なあ梨恵」
「なぁに?」
康貴を抱き上げて振り向く梨恵に、史貴はちょっと改まった口調で言った。
「結婚記念日、おめでとう」
「あなたも、おめでとう」
そう言って、梨恵は康貴を抱いたまま史貴に近づき、ちゅっとその頬に可愛らしいキスをした。
「さあ、顔を洗って来て。出かける支度しましょ」
「ああ、そうだな」
楽しい休日になる。
そう思いながら、史貴は洗面所へと向かった。
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