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ドライブ日和
凄まじい渋滞だった。
「やれやれ、動きそうにないなぁ……」
ハンドルを握る史貴はため息共にそう言った。
「まあまあ、時間はたっぷりあるでしょ」
助手席に座る恋人の梨恵が史貴の肩を優しく撫でながらそう言った。
「そうかい? かれこれ三十分はこうしてのろのろ運転が続いてると思うけど」
「でも、外はいいお天気だし、私達はちゃんとこうして二人でいる。立派なデートよ」
そう言って、梨恵は窓の外に広がる青空を手で示す。
春の日差しは暖かく、全く持ってドライブ日和だった。
「ちょっと排気ガス臭いけどね?」
できれば、この青い空の下を気持ち良く走りたかった史貴は、ちょっとだけ皮肉を込めてみる。
そんな史貴を見ても、梨恵はくすくすと笑うのだった。
「確かにそうね。でもね、私はあなたとなら渋滞でも楽しいわ」
そう言って笑った梨恵を不思議そうな顔で史貴は見た。
「どうして?」
「だって、あなたは渋滞でもイライラしないし。それにね、渋滞の時じゃないと、あなたは私の方を向いて話せないでしょ」
「そりゃ、軽快に走っている最中に君の方を向いていたら、危ないからね」
史貴は、特に梨恵を助手席に乗せているときには、決して危険な運転をしようとはしなかった。
「私を大切にしてくれるのは嬉しい。だからこそ、渋滞の最中私の方を向いて話してくれると、特別って感じがするのよ」
「ふうん。良く分からないけど……」
梨恵が楽しんでいるのであれば、まあ良いかとも思う史貴だった。
「のんびり行きましょ。ドライブ日和よ」
「けど、このままじゃ間に合わないと思うよ」
「あら、そうかしら? まだ時間はあるわよ」
「ダメだってば。だって今日は―-」
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