episode250 愛と愛

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「九条敬は――あの日俺がいることに気づいてた」 「え……?」 そこで征司は唐突に言った。 「気づいていたからこそ——俺に助けを求めずあいつを突き落としたんだ」 「そんなっ……」 否定しようとしても 僕には何ら材料がないことを征司は知ってる。 「ウソだ。九条さんがそんなことするはずないっ……!」 「あの日、あいつ自身がそう言ったろ?おまえの為なら人を殺める、何度だってそうするって」 征司は震える僕の瞳を捉えた。 こんな時だけ優しい兄の顔して。 「それがあの男の正義なんだ」 「放せっ……!」 僕はがむしゃらに征司の腕から逃れようともがいた。 征司の言うことか真実か嘘か。 九条敬の行動が正義か否か。 そんなの分からない。 ただ苦しかった。 「いやだっ……やめっ……!」 征司は抗う僕を力の限り己の方へと抱き寄せた。 そして強引に唇を重ねる。 「ン……」 波立つ湖面が日暮れ前の陽光を乗せて徐々に静かになる。 僕は唇を開きゆっくりと目を閉じた。
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