117人が本棚に入れています
本棚に追加
次に目覚めた時には夜が明けていた。
うっすらと――ひっそりと。
藍色の空が白んでゆく淋しい時間だ。
眠ってしまって身体が冷えた。
僕は肩から羽織った上着をかき寄せて
「え……」
それでふと気づくんだ。
僕の上着じゃないこと――。
微かに香るローズオイル。
まだ夢の続きかと思う。
だけど顔を上げるとそこに
「涙の痕だね。悲しい夢だった?」
本当にいたんだ。
「九条……さん……?」
僕の頬に触れ
優しく涙を拭ってくれる手。
「上着は着てなさい。ひどく冷えてる」
本物だ。
夢じゃないよ。
あんなことがあった後なのに
一糸乱れぬ姿で僕の目の前で九条敬は微笑んでいる。
最初のコメントを投稿しよう!