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「九条さんっ……!」
後を追うことはできなかった。
彼の背中が拒んでいた。
あの気高い貴公子が逮捕される場面など
理由はどうあれ僕に見て欲しいはずないじゃないか。
いつの間にか柵の向こうに九条さんの姿はあった。
征司と並ぶとこの時ばかりは
ポケットに手を突っ込んで飄々と立つ天敵を睨みつけ
「君は馬鹿だな」
苛立たし気に言った。
「あの子が苦しめば自分が一番苦しむことになるのにどうして分からない?」
征司はゆっくりと首を横に振った。
「お生憎様。苦しむのには慣れてる」
すでに敵意や傲慢さは消失し
そこにあったのは悟りのような表情だった。
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