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だから嫌味でもなく
本当に憐れむように征司は言うんだ。
「だからあんたには悪いが、当分の間出て来れないと思ってくれ――」
そこで気づいた。
「征司お兄様……?」
これが最終的な罠なら――。
征司は持ちうる全ての権力を駆使して
九条さんを牢屋に閉じ込めるつもりだ。
物理的に僕から引き離し
かつ社会的制裁を加える。
おまけに彼はあの性格だ。
たとえ僕を助ける為だったとはいえ
自分がルカを屋上から突き落としたと――。
証言を曲げることはないだろう。
「ダメっ……!九条さん行っちゃダメ……!」
僕が柵をよじ登ろうとした時。
彼は振り返りもせず行ってしまった。
「九条さんっ……!!」
慌ててバランスを崩した
落下寸前の僕は――。
皮肉にも征司の腕の中へ堕ちてゆく。
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