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「馬鹿言え、他に行くところなんてないだろ」
悪気なんて一つもないみたい征司は言う。
「なきゃ作るさ。それでどんな手を使っても――僕が九条さんを解放する」
途方に暮れているのはこっちなのに。
僕が何か言うたび
征司は取り残された子供みたいな顔をする。
「やめておけ。何があったにしろ人を殺した男だ」
「違うね。僕が愛した人だ」
九条さんの言った通り。
僕を傷つけることで僕以上に傷ついている
そんな征司の姿を見るのは正直悪くなかった。
「それに――誰より僕を愛してくれた人だ」
だから
そんなことないと十分分かっているのに。
僕は踏み躙る。
僕らの歪んだ愛を――。
じくじくと膿んだ愛を――。
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