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 一目惚れした、人だった。  入学したての数日間は、大学内どこを歩いていても、何かしらの部活やサークルの勧誘を受けた。だから人に見られたり、人から声を掛けられることにも特に何も思わなかった。のだが。  その時は自分に向けられた視線を、やけに感じた。それもそのはずだ。  相手はカメラの画面越しに、行幸を見ていたのだから。  ――画面の中で女の子は、カメラに気付いたのか足を止めた。こちらを振り向いた彼女と画面越しに目が合って、青年は思わず息をのんだ――。  カメラの後ろから顔を出したのは、柔和そうな地味な青年だった。背恰好も平均並み、服装もこれといって印象に残るようなものでもない。  それなのに、というか、だからこそ、というべきか。行幸はなんとなく、その青年から目が離せなくなった。 「ごめんごめん、きみが画面に入ってきたとき、なんか思わず、カメラで追っちゃって」 特徴のないその青年が、懐っこく親しみやすそうな声音と笑顔で一歩こちらに近付いてきたことに、行幸の心は思わず少し躍った。屈託がないというのはこのことをいうのか、と一人勝手に納得した。 「あ、俺たちは映画研究会っていって、映画を作るサークルです」     
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