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「その同じ作者の本で、そっちはもう絶版になったらしいんだけど、中学生くらいの時に読んだのかな、それに書いてあった。パラレルワールドは実在するらしい。そもそも宇宙ってやつは、誕生の瞬間から分裂を繰り返してて、だから、僕たちが住んでるんじゃない方の、片割れの宇宙っていうものも存在する。人間だって同じだ。人は、毎日毎日、いろんな選択を繰り返しながらじゃないと生きられない。例えば昼にカレーを食うかラーメンを食うかで迷って、カレーを選んだとしたら、今僕がいる世界では、僕はカレーを食べているけど、その隣に、僕がラーメンを選んだ世界、つまりパラレルワールドができる。これは日常の小さな選択だけど、もっと大きな選択だってそう。今の大学じゃなくて、もしあの大学に入ってたら、あの高校に通っていたら、もしあの街に生まれていたら……気が付けば、僕が歩いてきた道の後ろに、僕が選ばなかった可能性でできた無数のパラレルワ ールドができている。だからねあおい」 「え」 「世界は一つなんて嘘だ。それに」 「うん」 「自分が一人しかいないっていうのも嘘だ」 「そうなの?」 「だって、僕が今こうしてきみに見せているのとまったく同じ顔を、きみ以外の人間の前でも見せていると思うか?きみだって、僕から見えないところでは、僕の知らないきみの顔をしてるんだろう」 「それは……」 「いいんだよ、それで」 「え」 「僕がたくさん持っている世界のうちの一つが、誰かがたくさん持っている世界のうちの一つと、その端っこ同士でもいいから、重なれば、僕はそれでいい」 あおいは自分と大して目も合わせずに語る青年の横顔を見上げた。子供の瞳の中に自分が入っていることに、その瞳の輝きに、青年は気付いていない。
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