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自分の名前が、嫌いだった。
ランドセルのフタの裏側に平仮名で書かれた名前は、母の字だ。もうさすがに、自分の名前くらい漢字で書けることを、母は知ってるのかな。
名前は親がくれる最初のプレゼントというが、母にそんな気持ちはあったのだろうか。
今日も家には誰もいない。
こんな男とも女ともつかない名前に、どうしてしたんですか。もしかして、わざとだったんですか。
いっそ、タケオ、みたいな絶対男だろ、って名前か、そうじゃなければ、ユリコ、みたいな、女しかあり得ない名前に、してくれればよかったのに。
別に、食事を与えられていないわけではなかった。世の中には、自分より不幸な子供などたくさんいるだろう。テーブルの上には母が置いて行ったコンビニの袋がある。最後に母と一緒に食事をしたのは、いつだっただろう。
「何やってんの、あおい!」「あおいは本当に変な子ねえ」
記憶の中の、母が自分の名前を呼ぶ声は、ほとんどこんなものだった。
自分の名前が、嫌いだった。
母もたまには家にいることがある。そして時々は男を連れて来る。今までの男たちの中には、自分のことをあおいちゃん、と呼ぶ人も、あおいくん、と呼ぶ人もいた。
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