1/4
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ

 自分の名前が、嫌いだった。  ランドセルのフタの裏側に平仮名で書かれた名前は、母の字だ。もうさすがに、自分の名前くらい漢字で書けることを、母は知ってるのかな。  名前は親がくれる最初のプレゼントというが、母にそんな気持ちはあったのだろうか。  今日も家には誰もいない。  こんな男とも女ともつかない名前に、どうしてしたんですか。もしかして、わざとだったんですか。  いっそ、タケオ、みたいな絶対男だろ、って名前か、そうじゃなければ、ユリコ、みたいな、女しかあり得ない名前に、してくれればよかったのに。  別に、食事を与えられていないわけではなかった。世の中には、自分より不幸な子供などたくさんいるだろう。テーブルの上には母が置いて行ったコンビニの袋がある。最後に母と一緒に食事をしたのは、いつだっただろう。 「何やってんの、あおい!」「あおいは本当に変な子ねえ」 記憶の中の、母が自分の名前を呼ぶ声は、ほとんどこんなものだった。  自分の名前が、嫌いだった。  母もたまには家にいることがある。そして時々は男を連れて来る。今までの男たちの中には、自分のことをあおいちゃん、と呼ぶ人も、あおいくん、と呼ぶ人もいた。     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!