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万葉は興味があるのかないのか分からない返答をすると、黙って近くの椅子に腰を下ろした。行幸も黙って画面に集中した。しばしの沈黙の後、万葉がぽそっと口を開いた。
「ねえ行幸、3女の先輩たちが話してる、井岡先輩の噂って本当だと思う?」
パソコンを操作していた行幸の指は止まった。画面を見つめたまま思わず目を見開いてしまったことに、万葉は気が付いたか。――とりあえず、大丈夫そう。この動揺は、隠さなきゃならない。
なんで、今ここで、井岡の名前が出てくるのか。
井岡はあんな無害そうな見た目をしているので、行幸たち後輩の目から見れば信じ難かったのだが、女の話となると彼にあまりいい噂はないらしかった。
「さあね。私も全部の話を詳しく知ってるわけじゃないけど、いくつかは本当なんじゃないの」
こんな返答をするのは、何が狙いなのか。万葉に対する、牽制、か……?
「やっぱ、そうなのかなあ。でもさ、私、井岡先輩のこと好きなんだよね」
――別に、驚いてない。なんとなく、そうなのかもしれないとどこかで思っていた。
「そう」
それしか答えなかった。
「私、さっき下で井岡先輩見たよ。まだいるんじゃない。私もうちょっと編集やってくから、先帰ってなよ」
なぜ、こんなことを言うのか。今万葉に井岡のところに行かれたら、困るのではないのか。
「あ、そう?……じゃあ、私行くね。お疲れ、行幸」
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