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昔の自分が、登校拒否でもしていたら、逆にマシだったかもしれない、と思う。たぶん行幸には、登校拒否をするほどの度胸もなかった。登校拒否をしていた子がクラスにいたこともあったが、彼らは少なくとも、登校拒否という手段を使って何かに抵抗していたという点では、行幸よりよほど勇気があるだろう。例えそれが登校拒否のようなものでもいいから、意思表示をすることもなく、悩みがないのではなく、悩みすら感じないほどに無感動に生きてきた。それが自分という人間の10代だったのだろう。  そろそろ日が落ちるな。そういえば、電気を点けるのも忘れていた。部屋が薄暗い。 「あのさ」 あおいに呼び掛けられる。あおいは夕日が細く射し込む窓を背にして、薄暗がりの中にいる。 「いつも俺のことカメラで撮ってるけど、撮ってどうすんの」 「……何、急に」 「どうせ撮るなら、俺の身体でも撮ったらいいじゃん」 そう言ってあおいが自分のTシャツに手を掛けたので、行幸は慌ててその腕を抑え込んだ。  至近距離で見たあおいの顔は、寒気がするほど無表情だった。 「……僕はガキの身体になんて興味ねえよ」 やっとのことで発した言葉が、こういう場合の返答として果たして正しいのかは分からない。 「みゆき、俺は……」 耳元に子供らしい高い体温を感じる。熱い息が行幸の首筋にかかる。のに、行幸の背筋にはぞっと冷たいものが走って、今にも震え出さんばかりだった。  もういい。続きを言うな。 「きみ、何言ってんの」 目を見開いて発した声は、自分の声と思えないほど冷たかった。――そんな自分に嫌気がさした。     
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