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 あおいはふっと身体の力を抜くと、行幸の腕の中からするりと抜け出し、黙ってアパートの部屋を出て行った。行幸は、その背中をただ眺めていることしかできなかった。  わけもなく、誰もいない道を、ハイヒールで駆け抜けたくなることがある。  何も、女物の服や靴を全部捨ててしまったわけではない。行幸は欲望に忠実に、随分久し振りにグレンチェックのワンピースとヒールの靴を引っ張り出した。  家を飛び出し、夕暮れ時の住宅街をただ走った。どこまで行くか、そんなことは決めていなかった。ただ、頭を空っぽにしたかったのだと思う。  走って走って振り切ってしまいたい、いくつもの考えが頭に浮かんでいた。  あおいに好意を持たれていた。  しかしそれがどんなベクトルのものなのかが分からない。10は年下であろう少年のあおいが、男のフリをしている自分のことを好きだと。あおいの恋愛対象って、男なのか?それとも、本当は行幸の正体を見抜いていて、その上で――? 「わからない……」 呟いて歯を食いしばる。自分の足音が歯にまで響いている気がした。  と、いうか。  行幸は一つの可能性に思い当たる。  あおいは少年のはずとばかり思っていたが。やけに華奢な手足。いつもぶかぶかの服。  あおいも、私と同じなのではないか。  そうなるとより、話はややこしくなるが。     
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