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 駅前で交通量調査をやっている。アルバイトの青年の前を通りかかると、数取器がカチッと鳴らされ、その瞬間、私は数字になる。多分、人間じゃなく。データを構成するただの一要素に成り下がる。  交番の前にさしかかる。入口横に立てられた「前日の交通事故死傷者(都内)」という看板は、大抵負傷者は何十人といても、死者はゼロである。だから、たまにその欄が「1」とかなっている日は、ああ昨日は一人死んだのか、と横目で看板を見ながら漠然と思う。数字になってしまえば、人はその個を失うのだ。それが例え、命を落とした時でさえ。  ――結局のところ行幸(みゆき)自身にも、交通量調査で自分が数字にされたことを悲しむ資格はないのである。  グレンチェックのワンピース、長く伸ばしてコテで巻いた髪。  行幸の見た目は、言ってみれば量産型女子大生だった。  大勢の同じような服を着た女の子の中に埋もれて、センスを問われることすらない無難な恰好。やはりそこに個はないように、行幸には思えた。  抜け出したかったのだろうか。こんな、数字に絡めとられた世界から、それに染まった自分から。  二十歳の誕生日に、行幸は髪を切った。     
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