1/5
7人が本棚に入れています
本棚に追加
/39ページ

 ハイヒールの足音。クラクション。クソみたいな広告を恥ずかしげもなく大音量で流す大型ビジョンや宣伝トラックを見かけると、一体どういうつもりなのだろうかと感性を疑ってしまう。喧噪という言葉の相応しい街。別に、東京が汚れた所だとは思わない。上京して一年以上経ったが、東京の景色に慣れはしても、自分がそこに馴染めるようになる気はしなかった。 「そういえばさ、行幸。今このタイミングで髪切っちゃって、成人式はいいの」 万葉に言われるまで、成人式のことなど頭になかった。たしかに、周囲にも成人式のために髪を伸ばしている者は多い。 「まあ、成人式は、出ないかなあ」 「えっ、そうなの」 出たらいいじゃーん、と万葉は笑った。  まあそう思うよね、万葉は。  成人式になど最初から出る気がないのは本当だった。今更地元の同級生と会って話すことなど何もないと思っていた。  そういう気持ちは、東京生まれ東京育ちの万葉には分からないだろうな、と思う。別に万葉を非難したいのではない。行幸が選んで田舎に生まれたのではないように、万葉も選んで東京に生まれたわけではない。     
/39ページ

最初のコメントを投稿しよう!