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 アパートの中庭で何かが動いている。  中庭の砂利で遊ぶ……子供?  学生ばかり住んでいる単身者用アパートだから、住人ということはないだろう。  おいおい、どこから勝手に入り込んだっていうんだよ。  しかも間の悪いことに、どうも行幸の部屋の前らしい。ただ自分の家に帰ったと思ったらこれとは、なんとも気の休まらない事態となってしまった。行幸は反射的に辺りを見渡した。とりあえず今、人気はない。 ――住んでいるアパートに不法侵入の子供がいようが、それが一階の自分の部屋の目の前だろうが、私の知ったことではない。気になどしてなるものか。  明らかに身体に不釣り合いな大きなパーカーの背中を横切り、玄関ホールのドアを開けて自分の部屋を目指す。何故か、抜き足足差し足で。なんか、この子供と目が合ったが最後という気がしたのだ。  アパートの建物の中も人の気配が感じられない。同じフロアでもう帰ってきているのは行幸だけのようだ。 ――こんな時に限って……。勘弁してくれよ。  そう思った矢先に、目の端に別の人影が見えた。 ――おばちゃん。いつもの。園芸クラブの。     
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