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「ああ、よく来たねえ」
「ああ、そうそう。前に話した私の孫よ」
「そうなの、どことなくじいさんの面影があるでしょう」
祖母はそんな風に、自分の左側の誰もなにもいない透明な空間に向かって話続けた。
「こちらはねえ、こだまちゃんよ」
そして僕に向かって透明な空間を手で指し示して言ったのだ。
僕は何度目を凝らしても何も見えなかった。
それでも祖母はお構い無しに何ものかと話続けていた。
「おばあちゃん、電話借りるよ」
あまりの不気味さにすぐにお母さんに連絡した。
僕はお母さんに、とても慌てて感じた違和感と不安感とを必死な思いで言ったのだが、電話口は何とものんびりとした様子であった。
おばあちゃんも辛いのよとか、あんたを行かせて正解だったわとか、全然気にしている風ではなかった。
少し長めに居てあげてと言われてしまったくらいだ。
僕にどうしろっていうんだと、そう思ったけれど、僕は肯定も否定もせずにお母さんが満足するまで話を聞いてから受話器を置いた。
ダイヤル式の古い固定電話が、リンと始まりを告げたような気分だった。
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