となり

7/8
前へ
/8ページ
次へ
 すぐに消防に連絡して、庭に出た。  建物から離れていたし、強まってきた風の向きも悪くはなかったので、その火が家に燃え移ることはないだろうとは思った。  思ったけれど、大木を焼き尽くさんとする炎に立ち向かうには、僕と祖母ではあまりにも非力だったし、近づけは焼け落ちた枝の下敷きになる恐れすらあった。 ーおばあちゃんをよろしくねー  聞こえた言葉の向こう側に、髪の長い女の子が立っていた。  彼女は燃え盛る炎の中で、その炎のように揺らめいていた。  ようやく到着した消防に、火は消し止められたけれど、あの樹齢五百年の大木は、ものの数時間であっという間に消し炭になってしまった。  祖父の葬式のときより、一層小さくなった祖母が、祖父の仏壇の前でただじっと手を合わせていた。
/8ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1人が本棚に入れています
本棚に追加