〈 Ⅴ 〉

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「静な、あんとき後ろ向きに歩いたんや。おまえの隣まで」 後ろ向き?振り返らんと、後ろ向きに下がったってこと? 「賢いよなあ、咄嗟にそれができるて、12歳で」 感心したように言いながらアラビアータを食べる保を見ながら、おかしくなっていた。 きっとあの日、静ちゃんも必死やったんや。やっぱり緊張してたんや。そやのに私のあのアクシデント。 焦ったやろなぁ。でもそんなこと咄嗟に。 虚空蔵さんに貰った知恵が効いたんか、効く前から静ちゃんは十分賢こかったんか。 くすくす笑いながら、12歳の静ちゃんに心の中で謝っていた。 「なあ、静が結婚して離婚してる間、ずっと待たせてごめんな。今年、(大学院)終わったらこのまま研究室残ることになったから、リッチな暮らしはできんけど必ず幸せにするから結婚しょう」 アラビアータで口の周りをテカテカにしている人に 「待たせすぎやわ」 そう言いながら、にやけて頷いた私の口の周りもテカテカかもしれん。 2回目のプロポーズをしてくれた保の誠実さだけは、よう知ってると思う。 12歳のときから。     
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