〈 Ⅳ 〉

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なんかようわからんうちに家の前にいる。泣いたんがわからんように、涙の跡をごしごし擦って鞄をぎゅっと握る。 鞄の中にはお札とお箸が入ってる。お参りのあと最初に食べるご飯をこのお箸で食べたら、知恵がつくって言うてはった。その効果は振り返ってしもた私にもあるんやろか。 お昼御飯はご馳走やった。 「おめでとうさん」 そう言ったお父さんが美味しそうにビールを飲む。 私はご祈祷のお箸で大好物を食べてるのに、味がようわからん。 「どうやった?」 お姉ちゃんは興味津々で聞いてくる。 「別に。普通」 私はお姉ちゃんの方を見んと答えた。 振り返ってしもたことは言えなかった。 犬小屋には、まだシロが戻った気配はない。 ご飯を食べて着物を脱いで、自分の部屋に行く。 ベッドの上に寝転んでたら、またジワーっと涙が湧いてくる。 私は幸せになれへんかもしれん。虚空蔵さんのお箸で何回ご飯を食べても。 枕を抱きしめてそう思ったとき、玄関でチャイムの音がした。 「保くん、どないしたん?」 お母さんの声。 保? 「こんにちは。オレ、萌香さんに謝りに来ました」 保のそんな大きい声が聞こえた。 部屋から出たくなかったのに、お姉ちゃんが部屋の戸を開ける。 「保くん来てるで」 そう言われて、しかたないから玄関に降りた。保の顔なんか見たくなかった。 でも保は私を見るなり 「すまん!」 と言って腰を折って深々と頭を下げる。ちょっとびっくりした顔をしたお母さんが、キッチンの方に入って行った。 「ほんまにすまん!ごめんなさい!」 真新しい中学の制服のまんまで、頭を下げて謝っている保の肩が震えているように見えた。
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