〈 Ⅲ 〉

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ポツリとこぼれた言葉を静ちゃんは、すかさずキャッチしてくれる。 「着物?なんでぇ、萌ちゃんのかわいいやん。しかもよう似合うてるよ」 しっかり者の静ちゃんとは一年生の頃からの仲良しで、いっつも一緒におった。 小さいときから静ちゃんがずっと隣にいてくれはったから、私はこんなぼうっとした子になったんかもしれんなあ。 でも、隣に静ちゃんがいてくれたら安心してられる。 「萌ちゃん、結局、漢字なににしたん?」 桂川が見えたとき、静ちゃんがそう聞いてきた。砂利道を歩くザッザッという音が気になるんは、ようけ(たくさん)の人がいはるせいかもしれん。 「静ちゃんは?」 「私は知恵の『智』」 そう言いながら、空間に指で文字を書く。 「萌ちゃんは?」 私は『夢』という字と『幸』という字で迷っていた。 漢字をひとつ選ぶのは、十三まいりの大切なことのひとつ。 虚空蔵さんについたら、受付で祈祷の申込をする。申込用紙に自分が好きな漢字をひとつ、筆で書く。その願いがかなうように祈祷をしてもらう。 知恵を授けてほしいから静ちゃんは『智』。 私はやっぱり『幸』にしよう。どんな形でも幸せにはなりたいからなあ。 頭の中でようやく漢字を決めたときに渡月橋に差し掛かった。     
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