桜の木の下

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 桜は散っても、季節がめぐれば、また花を咲かすことができます。けれど、人の命は散ってしまったら終わりです。女性はしばらく静かに泣いていました。はらはらと落ちる花びらが女性の肩につもっていきます。やがて女性は泣くのをやめると、こちらに背を向け去っていきました。 やがて季節はめぐりめぐって、あのカップルがお花見にきてから10年たちました。その間、あの女性はあの涙の日以来一度もお花見に来ませんでした。  人の命は儚いもの。  そう思っていたのですが。  ある日、家族連れでお花見にきた人たちがいました。夫婦と、子どもふたり。私はその奥さんに見覚えがありました。あの時の、涙の女性ではありませんか!女性は夫と子どもに囲まれ、とても幸福そうに見えました。  ああ、人の命は儚いだけでなく、こんなにも力強いものなのかと、思わずにいられませんでした。  何度散っても時期がくれば花を咲かす、私たち桜のように。
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