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異変に気付き始めたのは、結婚2年目の春。すぐに杏樹は病院に検査に行った。検査の結果、大きな異常はないものの、妊娠しにくい体だと判明した。
杏樹はすぐに不妊治療を開始。しかし、杏樹が不妊治療を開始して4年経過後、初めて遺伝子的に妊娠できない体なのだという最終診断を受けてしまった。
そこで、悲しみに暮れ、すっかり笑顔を見せなくなってしまった杏樹に、夫裕介が声をかけたのだ。
「鹿島の家に遊びに行ってみよう」と。
裕介の予想…いや、期待以上に、杏樹は笑顔を取り戻した。
兎束と鹿島とは元々家族ぐるみでの交流があったのだが、ここ数年は疎遠になりつつあった。
(子供を待望していた杏樹には、鹿島の家は居心地が悪いのは当然のことである)
なので、裕介はこの家に来るまでは心配で仕方なかったのだが、その心配は扉を開けてすぐに払拭された。
真っ先に出迎えてくれた犬が、杏樹の心を一瞬で溶かしたのだ。鹿島の家の大型犬は特に人懐っこく、初対面の相手にも愛想と尻尾を振りまいた。
杏樹が犬を “ 飼いやすい ” と誤解しても仕方のないことだろう。
杏樹が鹿島の家の犬と無心で遊び始めて30分、ようやく裕介と鹿島夫妻の子供達の視線に気づいたときに、この言葉を発したのだ。
「犬を飼うには、どうしたらいいんだっけ?」と。
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